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分譲マンション住まいに地震保険は必要?
専有部分と共用部分の違いも解説

リビングルームの家具や家電を示すイラスト。

「マンションだから、地震被害を受けることはない」と耳にすることがあります。しかし、そうではありません。阪神・淡路大震災、東日本大震災、そして熊本地震と、過去の震災では、少なくはないマンションの被災例があります。
建築基準法上、耐震性が高いことは「壊れない」を意味しません。ひとたび被害を受ければ、マンションの修繕には多額の費用がかかることもあります。
分譲マンションで火災保険・地震保険に加入する場合、一戸建て住宅と異なる点があります。以下、概要を解説します。

マンションの保険は専有部分と共用部分に別々に加入する

分譲マンションでは、一戸建てとは異なるマンションならではの火災保険・地震保険の加入の仕方があります。
マンションは、専有部分と共用部分で構成されます。各マンションの管理規約によりますが、一般的な区分は以下のとおりです。

マンションの専有部分と共用部分における火災保険・地震保険
専有部分 共用部分
マンションのどの部分? 住戸部分
(戸室の壁から内側が一般的)
専有部分以外
(戸室の壁の外側部分)
火災保険・地震保険の加入は? 所有者が個々に加入する マンション管理組合が一括で加入するのが一般的
補償対象は? 室内の内装、設備 躯体部分、エレベーター、階段、貯水塔、バルコニー、エントランスなど

専有部分は、住戸部分を指します。共用部分は専有部分以外の以下の部分と考えれば分かりやすいでしょう。

など

火災保険や地震保険には、専有部分と共用部分に別々に加入します。専有部分は区分所有者が個別に加入し、共用部分はマンション管理組合が一括で加入するのが一般的です。

専有部分の火災保険金額はマンション分譲価格より低くなる

専有部分の火災保険金額は通常、マンションの分譲価格よりも低い金額になります。そもそも分譲マンションの価格には、土地代と共用部分の費用内容が含まれるためです。

火災保険金額として設定される建築費についても、躯体など多くの部分が共用部分にあたり、専有部分は内装や設備のみとなるため金額が低くなります。
なお、分譲価格よりも専有部分の火災保険金額が低くなっていても、適切に専有部分の火災保険に加入していれば、火災や風水災等により損害を受けたとき、内装や設備の損害を原状回復できる保険金が支払われます。

分譲マンションの価格の構成

分譲マンション購入における費用の内訳を示している図:土地代金(持分)(青色の上部)、建物代金:共用部分(持分)(青色の中部)(管理組合で保険加入)、建物代金:専有部分(オレンジ色の下部)(個人で保険加入)。

ただし、火災保険は地震や噴火、これらによる津波が原因の損害を補償対象外としています。地震が原因で生じたマンションの損害をカバーするには、地震保険への加入が必要です。その際、設定できる地震保険金額は、火災保険金額の50%が上限(※)です。

たとえば、一般的なファミリータイプのマンションの建物の火災保険金額を1,000万円とすると、地震保険金額は500万円が上限となります。つまり、火災保険とは異なり、地震で被った損害について、原状回復ができる保険金が支払われるとは限りません。
以下で述べるように、これには地震を対象にする保険ならではの理由があります。

そもそも地震保険とは

地震保険は、地震や噴火、これらによる津波を原因とする火災・損壊・埋没・流失による住宅や家財の損害をカバーする保険です。過去の発生確率から保険料を算出できる火災などと異なり、地震はいつ・どこで・どの規模で発生するか解明されていません。災害による損害額が巨額となる恐れもあり、損害保険会社が単独の保険として提供するにはリスクが大きい災害です。そのため、地震保険は法律にもとづき国が関与し、保険金の支払いも官民共同で責任を負う、非営利の保険制度として成り立っています。

ひとたび大地震が発生すれば、広域にわたり、相当数の住宅被害が生じる可能性があります。そのような場合でも、生活者の自助のために設けられた地震保険からは、確実に保険金が支払われなくてはなりません。そこで地震保険には、他の保険とは異なる以下のような特徴があります。

@ 居住用の建物と家財が対象
地震保険制度の目的は、地震で被災した人の生活再建を支えること。地震保険が補償対象とするのは、居住用の建物と家財(生活用動産)に限定されています。オフィス物件や什器備品など、事業のための建物などは対象になりません。また、生活用動産ではない骨とう品や美術品などで1個または1組の価額が30万円を超えるものや、有価証券なども対象になりません。
A 火災保険とセットで加入する
地震保険は、必要と感じた人が加入しやすいように、可能な限り保険料を抑えることが法律で求められています。火災保険と同時に契約することで募集経費等を節約できることもあり、セット加入をルールとしています。火災保険に加入していれば、契約の途中であっても地震保険に加入できます。
B 地震保険金額は火災保険金額の50%が上限
大地震により多くの世帯で損害が生じた場合でも、保険金は確実に支払われなくてはなりません。そのため、官民の保険金支払責任を多額にし過ぎないことも重要です。こうした理由から、地震保険金額は火災保険金額の30%〜50%、かつ建物は5,000万円、家財は1,000万円を限度としています。
C 4つの損害区分と保険金
被災者の生活再建が速やかにできるよう、地震保険金の支払いは可能な限り迅速であることが求められます。住宅の損害調査は、柱や壁、屋根などの主要構造部に着目して行われます。主要構造部の損害の大きさをカウントして迅速に損害調査の結果を導き出し、4つの損害区分「全損」「大半損」「小半損」「一部損」のいずれかに当てはめ保険金が支払われる仕組みです。
地震保険の建物の4つの損害区分〜倒壊の場合
損害の程度 主要構造部(※1)の損害割合 焼失または流出した床面積 支払われる保険金
全損 建物の時価の
50%以上
建物の延床面積の
70%以上
地震保険金額の100%
(時価額が限度)
大半損 建物の時価の
40%〜50%未満
建物の延床面積の
50%〜70%未満
地震保険金額の60%
(時価額の60%が限度)
小半損 建物の時価の
20%〜40%未満
建物の延床面積の
20%〜50%未満
地震保険金額の30%
(時価額の30%が限度)
一部損 建物の時価の
3〜20%未満
地震保険金額の5%
(時価額の5%が限度)

マンションが損害を受けたときは、マンション1棟の建物全体の損害状況により損害認定されます。ただし、マンション1棟の建物全体の損害の程度よりも、専有部分の損害のほうが大きい場合は、専有部分について個別に損害認定されます。

地震保険金額の上限が火災保険金額の50%であっても被災時の支えとなる

このように地震保険は、一般の保険とは異なる特徴があります。地震保険金額が最大でも火災保険金額の50%となる点を心細く感じる人もいるかもしれません。しかし、生活基盤に深刻な損害を及ぼす地震を受けたとき、地震保険金は生活再建の支えになり得るものです。
自然災害で住宅が一定の損害を受けたときは、マンション居住者も国の制度である被災者生活再建支援制度の対象になり、一世帯あたり最大300万円の支援金を受けられます。しかし、専有部分の修繕や仮住まいの確保には費用がかかり、修繕に時間がかかれば費用はよりかさみます。住宅ローンの残債があれば、その間も返済が続くことになります。こうしたとき、まとまった一時金として地震保険金が受取れれば、当面の生活の支えになります。

マンションの地震保険料は、都道府県により異なります。耐震基準や耐震性能により10〜50%の割引を受けられます。

マンションの地震保険料例
都道府県 北海道 宮城県 東京都 大阪府 福岡県
保険期間5年
一括払の保険料
15,450円 24,550円 58,150円 24,550円 15,450円
(参考)
1年あたりの保険料
3,090円 4,910円 11,630円 4,910円 3,090円
【算出条件】
マンション(イ構造)、保険期間5年、一括払、保険始期日2022年10月1日、新築、建築年割引10%適用(昭和56年6月1日以降に新築された建物に適用)
【地震保険金額】
500万円(建物の火災保険金額:1,000万円)

共用部分の地震保険の重要性を再確認

現在、マンション専有部分を含め、火災保険に地震保険を付帯している割合は69.0%(※)です。阪神・淡路大震災以降、付帯率は右肩上がりで増えてきました。

火災保険に地震保険を付帯している割合

年度ごとのデータを示す折れ線グラフ。横軸は年度、縦軸はデータの数値。各データポイントは年度ごとに一貫して上昇している傾向を示しており、全体的に右肩上がりの線が描かれている。
出典:一般社団法人 日本損害保険協会「地震保険の都道府県別付帯率の推移」

一方、マンション共用部分の地震保険加入率は、増えてきてはいるものの、未だ4割程度(※)にとどまります。
マンションの共用部分が地震で損害を受けたときは、専有部分の地震保険では対応できません。管理組合等が加入する火災保険に地震保険がセットされている必要があります。

前述のように、建物の専有部分以外はすべて共用部分です。地震でマンションの構造部分が損害を受ければ、多額の修繕費用がかかる可能性があり、修繕積立金では不足することも考えられます。修繕に向け、住民の合意形成を図る必要もありますが、マンションには家計状況や価値観が異なる多様な住民が暮らしています。修繕資金が足りず、住民の追加負担が必要となれば、マンション修繕に向けた住民の合意形成が難しくなる可能性もあります。

ここで有力な備えの手段になり得るのが、共用部分の火災保険にも地震保険を付帯しておくことです。修繕資金を事前に確保できていれば、修繕時の財源問題が緩和されるため、再建や修繕に向けて住民の合意も得やすくなるはずです。

国土交通省が東日本大震災の翌2012年9月に公表した「マンションの災害対応に関する取組み」では、「地震保険の加入によって、復旧の費用を地震保険から補填するメドがついたことで、合意形成が迅速に行われ、工事が円滑に進んだケースが多かった」とし、分譲マンションの地震保険の加入を評価しています。

建物を適切に維持し、生涯にわたり安心して住み続けるために、今できる備えを進めておくことはとても大切です。専有部分の地震保険だけでなく、共用部分の地震保険の加入についても、住民の皆さんで話し合ってみてはいかがでしょうか。

執筆者清水香1968年東京生まれ。CFP 登録商標 認定者。FP1級技能士。社会福祉士。消費生活相談員資格。自由が丘産能短期大学兼任教員。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランニング業務を開始。2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年、(株)生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、TV出演も多数。公式ウェブサイト(外部サイト)