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「液状化」による損害はどの保険で補償される?
補償例や保険による備えの必要性も解説

地震の揺れで地盤が液体状になる「液状化」が起きると、住宅が沈んだり傾いたりして、最悪の場合には住み続けるのが難しくなることもあります。地震による液状化で住宅等に損害が生じたときは、地震保険で補償を受けられます。以下で解説します。

液状化で一定以上家が傾いたら地震保険で補償される

地震や噴火、これらによる津波により生じた損害は、地震保険で補償を受けられます。地震による揺れで住宅が損壊する場合のほか、地震の揺れで地盤が液体状になる「液状化」により住宅が沈んだり傾いたりした場合も、地震保険の補償対象です。

液状化とは?起こる仕組み

液状化は、ゆるく堆積した砂の地盤が地震により激しく揺さぶられたとき、液体のように地盤が一時的にやわらかくなる現象です。地下水の中に砂の粒子が浮かんだ状態になって建物を支える力が失われるため、建物が沈下したり傾いたりします。海岸沿いの土砂等を使った埋立地や旧河道の埋立地などで発生します。阪神・淡路大震災や東日本大震災、熊本地震といったいずれの大地震でも、液状化による被害は発生しています。
ひとたび液状化が発生すると、住めないほど住宅が傾いたり、沈んだりして大きな被害を及ぼすおそれがあります。住宅を復旧する際、住宅修繕のほか地盤修復にもお金がかかることもあります。

液状化による損害で補償されるケース

地震等により発生した液状化による住宅等の損害が補償されるのは、たとえば以下のようなケースです。

  • 液状化で住宅が傾いた
  • 液状化で住宅が沈下した

一定以上の沈下や傾斜が補償対象で、損害の程度により受取れる保険金は変わります。
液状化による損害が補償されるのは、地震等が原因で起きた場合に限ります。また、門や塀などに単独で損害が生じた場合でも、住宅そのものに損害がない場合は補償されません。地震の発生から10日経過後に生じた損害についても、地震との因果関係が明確でなく補償対象になりません。

被災者生活再建支援金は最大300万円

液状化などで住宅に被害を受けたときには、公的な支援制度もあります。災害時に受けられる支援制度は、災害の規模や被害の程度により異なります。自治体が調査、判定して交付される、り災証明書(罹災証明書)に被害区分が記載されるので、確認しておきましょう。

り災証明書を発行するために行われる、液状化等で被害を受けた住宅の自治体による第1次調査では、外観による判定や傾斜または住家の潜り込みによる状況に応じ、「全壊」「大規模半壊」「半壊」の判定を受けます。被害状況がいずれにも該当しない場合には、地震や水害等で用いる通常の被害認定調査が行われます。

液状化等の地盤被害による被害認定
被害状況 損害の程度
の判定
  • 一見して住家全部が倒壊、住家の一部の階が全部倒壊など
  • 外壁または柱の傾斜が1/20以上
  • 床上1mまでのすべての部分が地盤面下に潜り込み
全壊
(損害割合50%以上とする)
  • 不同沈下※1があり、傾斜が1/60以上1/20未満
  • 床までのすべての部分が地盤面下に潜り込み
大規模半壊
(損害割合40%以上50%未満とする)
  • 不同沈下があり、傾斜が1/100以上1/60未満
  • 基礎の天端下25pまでのすべての部分が地盤面下に潜り込み
半壊
(損害割合20%以上30%未満とする)

上記のいずれにも該当しない場合は、地震・水害等の通常の被害認定調査を行う

第1次調査後に被災者から申請があった場合には、第2次調査が行われます。さらに詳細な調査により、全壊から一部損壊まで6区分の認定を受けます。

被害認定されたら支援金が支給される

調査の結果、り災証明書の区分が「全壊」または「大規模半壊」「中規模半壊」と判定された場合には、被災者生活再建支援制度による支援金が支給されます。10世帯以上の住宅全壊の被害が生じた市区町村に適用されるこの制度は、「基礎支援金」と「加算支援金」の2つで構成されます。支援金の金額は以下のとおりです。

「被災者生活再建支援金」の額
基礎支援金
(被害程度)
加算支援金
(再建方法)
合計
全壊・解体・
長期避難
100万円 建設・購入 200万円 300万円
補修 100万円 200万円
賃借(除、公営住宅) 50万円 150万円
大規模半壊 50万円 建設・購入 200万円 250万円
補修 100万円 150万円
賃借(除、公営住宅) 50万円 100万円
中規模半壊 建設・購入 100万円 100万円
補修 50万円 50万円
賃借(除、公営住宅) 25万円 25万円

自然災害で全壊10世帯以上の被害が発生した市町村等に適用。単身世帯が受け取れる支援金は3/4の金額。

このように、基礎支援金は「全壊」と「大規模半壊」が対象、加算支援金は「中規模半壊」以上が対象で、中規模半壊に満たない損害は対象外です。住宅が液状化の被害を受けた場合も、支援金を受けられるのは一定の損害を受けたときに限られ、かつその金額は300万円が上限となります。

地震保険で液状化の被害に備えられる

居住する土地に液状化が起これば、住宅に深刻な損害が生じるおそれがあります。住宅の修繕や地盤改良に多額の費用がかかり、公的な支援制度の対象となった場合でも費用が足りなくなるおそれもあります。このとき地震保険は、被災後の生活再建に備える有力な選択肢となります。

地震保険は、被災者の生活再建を支えるため、1966年に法律に基づき設けられた制度です。災害の発生時期や発生頻度の予測が困難で、かつ大災害となることがあるのが地震であり、支払う保険金の総額が予測を超える金額になるおそれもあります。地震は、過去の発生確率を解析して保険料を算出する保険原理に乗りにくいリスクなのです。こうしたリスクを損害保険会社(以下「損保会社」)単体で負うのは困難を伴うため、損保会社とともに、政府も保険金支払いの責任を負うことで地震保険制度は成立しています。

地震保険の特徴

このように特殊な制度である地震保険には、通常の保険とは異なる点もあります。たとえば生命保険は、健康状態があまりよくない場合には保険料が割増となったり、加入できなかったりすることがあります。他方で地震保険は、被災者の生活再建を支えることを目的とした政府関与の制度であり、地震により被害を受けるリスクが高い居住地または住宅であっても、原則として加入することができます。地震による液状化が予測される居住地は全国にありますが、こうした場所に住む人であっても、被害に備えることができます。

また、地震保険は火災保険とあわせて加入することになりますが、その商品性には火災保険にはない以下のような特徴があります。

  • 居住用の住宅と家財(生活用動産)が対象
  • 火災保険金額の50%が地震保険金額の上限
  • 「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4つの損害区分で保険金支払い

居住用の住宅と家財(生活用動産)が対象

地震保険に入れるのは
建物 家財
対象になる 居住用の建物 生活用動産
× 対象にならない 事業用物件や工場など、人が生活するための住まいとして使用されない建物。 1個または1組の価額が30万円を超える貴金属や骨とう品など。通貨や有価証券、自動車も対象外。

地震保険は、被災した人の暮らしを支えることが目的なので、加入できるのは居住用の建物(住宅)と暮らしに必要な家財(生活用動産)に限られます。事業用物件などは加入できず、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属や骨とう品などは生活用動産とみなされず対象外になります。生活に必要であっても自動車も地震保険上の家財に含まれず対象になりません。

火災保険金額の50%が地保険金額の上限

地震保険金額の範囲
建物 家財
保険金額の範囲 火災保険金額の30%〜50%
(5,000万円が上限)
火災保険金額の30%〜50%
(1,000万円が上限)

どのような大地震が起きても、地震保険金は被災者に広く支払われなくてはなりません。
そのため、地震保険には1契約あたりで設定できる地震保険金額に上限が設けられています。建物の地震保険金額は、火災保険金額の30%〜50%の範囲内、かつ5,000万円が上限となります。建物の火災保険金額が3,000万円であれば地震保険金額は900〜1,500万円で設定します。家財の場合は火災保険金額の30%〜50%の範囲内、かつ1,000万円が上限となります。
地震保険金だけでは原状回復が難しいかもしれませんが、最悪の場合、被災すれば生活基盤を失うこともあるのです。地震保険金はおおいに頼りになるはずです。

「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4つの損害区分で保険金支払い

地震等を原因とする液状化による損害認定基準(木造建物、共同住宅を除く鉄骨造建物)
損害の程度 「地震等」を原因とする地盤液状化による損害 支払われる保険金
傾斜 最大沈下量
全損 1.7/100(約1°)を超える場合 30pを超える場合 地震保険金額の100%
(時価額が限度)
大半損 1.4/100(約0.8°)を超え、
1.7/100(約1°)以下の場合
20pを超え、
30p以下の場合
地震保険金額の60%
(時価額の60%が限度)
小半損 0.9/100(約0.5°)を超え、
1.4/100(約0.8°)以下の場合
15pを超え、
20p以下の場合
地震保険金額の30%
(時価額の30%が限度)
一部損 0.4/100(約0.2°)を超え、
0.9/100(約0.5°)以下の場合
10pを超え、
15p以下の場合
地震保険金額の5%
(時価額の5%が限度)

液状化による被害を受けたら、損保会社に連絡して損害調査を受けます。
液状化による損害調査では、傾斜または最大沈下量の程度により、「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4区分に当てはめられて保険金が支払われます。損害の程度が「一部損」に至らない場合、保険金は支払われません。

たとえば、住宅が30pを超えて沈下している場合、あるいは約1°を超えて傾斜している場合は全損となり、地震保険金額の100%が支払われます。比較的小さな被害であっても、10p超えて沈下している場合、0.2°を超えて傾斜している場合は一部損の対象になり、地震保険金額の5%の保険金が支払われます。

沈下と傾斜の損害がともに発生している場合には傾斜・最大沈下量のいずれか高いほうの損害程度が採用されます。また、液状化による被害以外に、屋根や壁、柱など建物の主要構造部にも大きな損傷が生じている場合には、建物部位の被害程度に着目した損害の認定基準での損害認定も行い、損害区分の高いほうが採用されます。

修理費=保険金となる火災保険とは異なり、地震保険は損害区分に応じて保険金が支払われます。こうした認定基準が設けられているのは、損害調査を迅速に行い、地震保険金を可能な限り早く支払うためです。保険金が早く入金されれば、被災者が生活再建を速やかに進めることにも繋がります。

なお、地震保険の損害区分は「り災証明書」の被害程度と異なるものです。損害を調査・確認する際の着眼点が異なるためで、り災証明書上で全壊とされた住宅が、必ずしも地震保険で全損とならない点は知っておきましょう。

居住地の液状化リスクを知る方法

最後に、居住地の液状化リスクを確認する手段をご紹介しましょう。

市区町村の防災ページには、各種ハザードマップが公表されていますので確認しましょう。国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」内の「わがまちハザードマップ」にも、市区町村が公開している地盤被害(液状化)マップが公表されています。地盤被害以外にも、震度被害や建物被害、火災被害などさまざまなマップが確認できます。

また、「地震被害想定調査結果等の一覧」には、都道府県の液状化危険分布図がまとめられています。

居住地の液状化リスクを確認して、地震保険の補償内容の確認をはじめ、被災時に必要な準備を進めておきましょう。地震保険は液状化のみならず、地震の揺れによる損害や、地震が原因で起きた火災による損害、津波による損害もカバーできます。実際に地震が起きて自宅に被害が起きたときは、地震保険でさまざまな地震等による損害の補償を受けられることを知っておいてください。

執筆者清水香1968年東京生まれ。CFP 登録商標 認定者。FP1級技能士。社会福祉士。消費生活相談員資格。自由が丘産能短期大学兼任教員。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランニング業務を開始。2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年、(株)生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、TV出演も多数。公式ウェブサイト(外部サイト)