メインコンテンツへ移動

「津波」による損害はどの保険で補償される?
補償例や保険による備えの必要性も解説

津波による住宅等の損害は、火災保険の水災では補償されません。地震等が原因で起きる津波の被害は、地震保険で補償されます。以下で解説します。

津波による損害は火災保険では補償されない

住宅や家財が津波による損害を受けたときは、火災保険では補償されません。火災保険には水災補償がセットできますが、同じ水による損害であっても、津波は水災補償の対象外です。地震等が原因で起きる津波の被害は、地震保険でカバーされます。

津波による損害で補償されるケース

地震保険では、津波による以下のような住宅や家財の損害が補償されます。

  • 津波により住宅や家財が流失した
  • 津波により住宅が床上浸水の被害にあった
  • 津波により火災が発生し住宅を焼失した

ただし、以下のケースは地震保険で補償されません。

  • 津波で自動車が流失した
  • 地震発生から10日経過後に損害が発生した
  • 避難中の留守宅で盗難にあった

地震保険は家財も補償対象とすることができますが、自動車は地震保険上の家財に含まれず補償対象になりません。地震発生から10日経過後に受けた損害も補償されません。また、避難中の留守宅で起きた盗難についても、盗難自体は地震をきっかけにして発生したかもしれませんが、地震により家財が直接的に被害を受けたものではないため、補償されません。

被災者生活再建支援金を受けられるのは床上1m以上の浸水

浸水深による判定基準と基礎支援金(水害による被害 木造・プレハブ住宅)

戸建ての1〜2階建てで、津波等の外力が作用力作用することによる一定以上の損傷が発生している場合

最も浅い
浸水部分
床上1.8m以上
(全壊)
床上1m以上
1.8m未満
(大規模半壊)
床上0.5m以上
1m未満
(中規模半壊)
床上0.5m未満
(半壊)
床下浸水
(一部損壊)
被災者生活
再建支援制度の
基礎支援金
100万円 50万円 なし

津波などで住宅に被害を受けたときは、公的な支援制度もあります。代表的な支援制度に被災者生活再建支援制度があり、最大300万円の支援金を受取ることができます。支援金は2つで、住宅の損害程度に応じて支払われる最大100万円の「基礎支援金」と、住宅の再建方法に応じて支払われる最大200万円の「加算支援金」で構成されます。

支援金を受取るには、自治体による住宅の被害認定を受けます。一見して住家全部が倒壊するなど外観による判定に該当しない場合は、浸水の深さ(浸水深)による判定を行います。被害が深刻な順に以下のように区分され、り災証明書(罹災証明書)に記載されます。

  • 住宅流失または床上1.8m以上の浸水=「全壊」
  • 床上1m以上1.8m未満の浸水=「大規模半壊」
  • 床上0.5m以上1m未満の浸水=「中規模半壊」
  • 床上0.5m未満の浸水=「半壊」
  • 床下浸水=「一部損壊」

このうち基礎支援金の支給対象になるのは、り災証明書の被害認定が「全壊」または「大規模半壊」であり、「中規模半壊」以下は対象になりません。ひとたび床上浸水となれば建具や家具、家電製品は使用できなくなり、深刻な被害が避けられないかもしれません。しかし床上1m未満の浸水は、たとえ被害を受けていても、基礎支援金の対象とならないのです。

  • 中規模半壊は加算支援金のみ対象

他方、床上1m以上の浸水となる大規模半壊以上で支援金が支給される場合でも、受取れる基礎支援金は最大100万円です。住宅の再建方法に応じて最大200万円の加算支援金の給付もありますが、合計で最大300万円です。とりわけ住宅ローン返済中に深刻な被害を受けた場合は、住宅修繕費用がかかるだけでなく住宅ローン返済が続くため、生活再建には困難を伴うことも考えられます。

地震保険で津波の被害に備えられる

地震や津波はいつ起きるかわかりません。津波の被害を受ける地域は沿岸部などある程度限られていますが、ひとたび起きれば暮らしに深刻な被害を及ぼすおそれがあります。こうしたとき、地震のみならず、津波による住宅や家財の損害もカバーできるのが地震保険です。

地震保険は法律に基づき設けられた、政府が関与する特殊な保険制度です。地震保険には、火災保険にはない以下のような特徴があります。

居住用の建物と家財(生活用動産)が対象

地震保険に入れるのは
建物 家財
対象になる 居住用の建物 生活用動産
× 対象にならない 事業用物件や工場など、人が生活するための住まいとして使用されない建物。 1個または1組の価額が30万円を超える貴金属や骨とう品など。通貨や有価証券、自動車も対象外。

地震保険に加入できるのは、居住用の建物(住宅)と暮らしに必要な家財(生活用動産)で、事業用物件などは加入できません。家財であっても、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属や骨とう品などは対象外になります。また生活に必要な場合であっても、自動車は家財に含まれないため地震保険では補償されません。

火災保険金額の50%が地震保険金額の上限

地震保険金額の範囲
建物 家財
保険金額の範囲 火災保険金額の30%〜50%
(5,000万円が上限)
火災保険金額の30%〜50%
(1,000万円が上限)

地震や津波は、時に広域にわたり大きな被害を及ぼすことがあります。そのような場合でも、被災者の生活再建を支えるための地震保険金は、確実に支払われなくてはなりません。
そのため、地震保険では1契約あたりで設定できる保険金額に上限が設けられており、住宅の地震保険金額は火災保険金額の30%〜50%の範囲内、かつ5,000万円が上限になります。火災保険金額が3,000万円の場合、地震保険金額は900〜1,500万円の範囲内となります。家財の場合は火災保険金額の30%〜50%の範囲内、かつ1,000万円が上限となります。

津波による被災では生活基盤を失うおそれがあり、かつ公的な支援だけでは十分と言いにくい現実もあります。手元資金で生活再建を図るのも困難なとき、地震保険金だけで原状回復は難しいとしても、受取れる保険金は生活再建の大きな助けになります。

「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4区分での保険金支払い

津波による損害の認定基準(木造建物、共同住宅を除く鉄骨造建物)
損害の程度 津波による損害 支払われる保険金
全損 下記以外 180cm以上の床上浸水を被った場合
または地盤面から225cm以上の浸水を被った場合
地震保険金額の100%
(時価額が限度)
平屋建て 100cm以上の床上浸水を被った場合
または地盤面から145cm以上の浸水を被った場合
大半損 下記以外 115cm以上180p未満の床上浸水を被った場合
または地盤面より160cm以上225cm未満の浸水を被った場合
地震保険金額の60%
(時価額の60%が限度)
平屋建て 75cm以上100p未満の床上浸水を被った場合
または地盤面より80cm以上145cm未満の浸水を被った場合
小半損 下記以外 115cm未満の床上浸水を被った場合
または地盤面より45cmを超えて160p未満の浸水を被った場合
地震保険金額の30%
(時価額の30%が限度)
平屋建て 75cm未満の床上浸水を被った場合
または地盤面より45cmを超えて80p未満の浸水を被った場合
一部損 基礎の高さ以上の浸水を被った場合で全損、大半損または小半損に至らないとき 地震保険金額の5%
(時価額の5%が限度)

津波による損害を受けたときは、地震保険ではその損害を浸水深(浸水の深さ)により「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4区分に当てはめられて保険金が支払われます。損害の程度が「一部損」に至らない場合、保険金は支払われません。

たとえば、2階以上の住宅で180cm以上、平屋建てで100p以上の床上浸水の被害を受けたときは「全損」となり、地震保険金額100%の保険金が支払われます。他方、2階建て以上の住宅で115p未満、平屋建てで75p未満の床上浸水の被害を受けたときは「小半損」となり、地震保険金額の30%の保険金が支払われます。被災者生活再建支援金の基礎支援金が、大規模半壊以上の被害を受けた場合のみを給付対象としているのに対し、地震保険ではそれに及ばない被害でも保険金を受取れ、生活再建に役立てることができます。

火災保険では修理費=支払われる保険金となるのが一般的ですが、地震保険では修理費ではなく、損害の程度に応じて保険金が支払われます。その理由は、迅速に損害調査を進めることによって、地震保険金を可能な限り早く支払い、被災者の生活再建をより早く進められるようにするためです。

なお、地震保険の損害区分は「り災証明書」の被害程度と異なるものです。損害を調査・確認する際の着眼点が異なるためで、り災証明書上で全壊とされた住宅が、必ずしも地震保険で全損とならない点は知っておきましょう。

津波ハザードマップで居住地の被害予測を確認

政府の中央防災会議は、現在の科学で想定しうる最大クラスの南海トラフ地震が発生した際の被害想定を実施しています。被害想定によれば、静岡県から宮崎県にかけての一部で震度7となるおそれがあるほか、それに隣接する周辺地域でも震度6強から6弱の揺れになり、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の地域に10mを超える大津波の襲来が想定されています。

南海トラフ巨大地震は、千年に一度程度と発生頻度は低い地震とされています。ただ、いつ発生するかはわからないこうした巨大地震および大津波が襲来すれば、広い地域に大きな被害が発生するおそれがあります。

津波災害の軽減を図るため、市区町村には都道府県が作成した津波浸水予測図をもとにした「津波ハザードマップ」の作成が求められています。現在、津波ハザードマップの作成義務のある自治体のうち公表済の自治体は、令和5年「防災白書」によると約95%です。市区町村の防災課等のウェブサイトで確認できるほか、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」では、広域にわたる津波ハザードマップを確認することもできます。

津波による被害にあうおそれがある場所に住んでいるのであれば、津波ハザードマップで自宅の被害予測を確認したうえで、地震保険への加入も含め必要な準備をしておきましょう。

執筆者清水香1968年東京生まれ。CFP 登録商標 認定者。FP1級技能士。社会福祉士。消費生活相談員資格。自由が丘産能短期大学兼任教員。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランニング業務を開始。2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年、(株)生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、TV出演も多数。公式ウェブサイト(外部サイト)