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火災保険の「水災」の補償とは?
補償内容とその必要性を解説

床上浸水や土砂災害といった水災による住宅等の損害は、火災保険の補償対象です。火災保険は火災のみならず、自然災害や偶然の事故による損害でも補償を受けられ、そこに水災も含まれます。ここでは、水災補償の内容や、居住地の水災リスクの確認方法などを解説します。

火災保険の水災(水害)とは

火災保険における水災(水害)とは、台風や暴風雨、豪雨等を原因とする以下の災害を指します。

さまざまな水災
外水氾濫
内水氾濫
融雪洪水
土砂災害
高潮

水災で住宅や家財に深刻な被害が及ぶことは少なくありません。修繕等に必要となる費用が保険金でカバー出来れば、生活再建がよりスムーズに進められるでしょう。火災保険はこれらの被害に備える有力な手段のひとつと位置付けられます。

火災保険の水災補償とは

火災保険の「水災」は、洪水や内水氾濫、高潮、土砂崩れなどが原因で生じた建物や家財の損害を補償します。具体的には、以下のような損害を受けたときが対象です。

建物の損害については建物を対象にした水災補償、家財の損害については家財を対象にした水災補償がそれぞれの火災保険に付帯されている必要があります。持ち家世帯は建物と家財の両方に、賃貸世帯は家財を対象にした火災保険に水災補償を付帯していれば補償を受けられます。

「建物」「家財」の対象となる具体例

建物

建物のイメージ:家、マンション
  • 屋根
  • 畳や床材、内壁など
  • 門や塀、車庫、カーポートなど
  • 備えつけの冷暖房設備など
  • マンション等の区分所有建物のご契約の場合、一般的には「共用部分」は保険の対象に含みません。

家財

家財のイメージ:ランプ、ソファ、テレビとテレビ台
  • 家具
  • 家電製品
  • 家庭用の食器、日用品
  • 自転車、125t以下の原動機付自転車

洪水による損害

水災が補償する「洪水」とは、以下のようなケースが該当します。

  • 集中豪雨により近隣の河川の堤防が決壊し、自宅に床上浸水の被害が生じた
  • 集中豪雨により近隣の河川が氾濫し、自宅に床上浸水の被害が生じた

「水」によって損害を受けた場合であっても、損害の原因が地震である場合には、水災ではなく地震保険で補償されます。

土砂崩れ(がけ崩れ)による損害

水災が補償する「土砂崩れ」とは、以下のようなケースが該当します。

  • 集中豪雨により裏山で土石流が生じ、住宅が流失した
  • 長雨によりがけ崩れが生じ、住宅が損壊した

土砂災害が集中豪雨などでなく地震によって発生した場合には、水災ではなく地震保険で補償されます。

土砂崩れについて詳しくは、下記ページもご覧ください。火災保険で「土砂崩れ」による損害は補償される?補償例や必要性を解説

火災保険で水災に備える必要性

水災による住宅被害はしばしば深刻なものとなります。浸水で住居内の建具や家具、家電製品にひとたび水がかかれば、たとえ浸水の深さがさほどでないとしても使用不能になってしまうでしょう。土砂崩れにより住宅に土砂が押し寄せたときも同様です。予期せぬ数百万円から数千万円レベルの損害が出かねないのが水災です。

公的な支援金は被害が全壊でも最大300万円

住まいが自然災害で被災したときには公的支援もありますが、その内容が限定的であることを理解しておきましょう。
住宅が被災したときの主な制度には、70万6千円を上限に、日常生活に不可欠な部分の応急的な修理を受けられる「住宅の応急修理制度」、住宅全壊等の世帯に最大300万円を支給する「被災者生活再建支援制度」があります。支給を受けられるかどうかは、自治体が住宅の損害状況を調査・発行する、り災証明書(罹災証明書)の区分に応じて決まります。

り災証明書の区分に対応する主な公的支援
り災証明書の損害区分
住宅の被害の程度
(損害割合)
全壊
(50%以上)
大規模半壊
(40%以上
50%未満)
中規模半壊
(30%以上
40%未満)
半壊
(20%以上
30%未満)
準半壊
(10%以上
20%未満)
準半壊に
至らない
一部損壊
(10%未満)
住宅の応急修理
(災害救助法)
(最大70万6千円)

(※1)

(※2)

(※2)

(※2)
×
被災者生活再建支援制度
(最大300万円)

(※3)
× × ×
  • 応急修理で居住可能な場合が対象
  • 被災者の申出による資力等を勘案して給付の可否が判断される
  • 加算支援金のみ(基礎支援金はなし)
  • 内閣府防災情報のページ「被災者支援」をもとに著者作成

公的な支援金の支給は限定的

公的支援は、一定以上の深刻な被害を受けた場合が対象です。たとえ浸水の深さが浅くても、ひとたび床上浸水となれば、建具や家具、家電製品等に相当な被害が生じるでしょう。しかしながら、木造住宅の床上50p未満の浸水では罹災証明書上で「半壊」と区分され、被災者生活再建支援金の支給対象外となるのです。

浸水深による判定基準と基礎支援金(水害による被害 木造・プレハブ住宅)
最も浅い
浸水部分
住宅流失または
床上1.8m以上
(全壊)
床上1m以上
1.8m未満
(大規模半壊)
床上0.5m以上
1m未満
(中規模半壊)
床上0.5m未満
(半壊)
床下浸水
(一部損壊)
被災者生活
再建支援制度の
基礎支援金
100万円 50万円 なし

支援金の対象になる場合でも、住宅再建や修繕費用を賄うのに充分な金額が得られるとは限りません。とりわけ深刻なのが住宅ローン債務を抱えた世帯が住宅を失うこと。新たな住まいのための負担が生じる一方で、失った住まいのローン返済が継続するからです。
公的支援のみで被災後の生活再建を図ることは、困難を伴うこともあります。手元のお金で賄うことも難しい場合のために、火災保険による事前の備えが重要になるのです。

火災保険で水災補償の保険金が支払われる場合

水災の補償を受けるには、要件を満たす必要があります。以下のいずれかを満たすと損害額に応じた保険金が支払われます。ただし、損害保険会社(以下「損保会社」)により認定基準が異なる場合があります。

床上浸水は、居住の用に供する部分の床に、床上以上の浸水で損害が生じていれば補償されます。床面が高い住宅などで床上浸水に至らない場合であっても、地盤面(建物が周囲の地面と接する位置)から45pを超える浸水被害は補償されます。
他方、床上浸水を伴わない土砂災害、落石などの被害は、住宅等に再調達価額の30%以上の損害が生じたときが補償の対象です。3,000万円の住宅を例にすると、土砂災害で900万円以上の損害が生じれば補償されますが、それ未満だと補償されません。居住地に土砂災害等のおそれがあるときはこの点を知っておく必要があります。

また、補償が十分ではない火災保険もあります。住宅総合保険などの火災保険では、損害額ではなく損害の程度に応じて保険金を算出したり、火災保険金額の7割を保険金の上限にしたりする場合もあります。この場合、損害額の全額をカバーできないことがあります。過去に住宅ローン契約と同時に長期火災保険へ加入した場合、該当するかもしれません。折を見て契約内容を確認しましょう。

マンションでも、水災リスクに備えたほうが良い場合もあります。一般に木造住宅に比べてマンションのほうが堅固ではありますが、低層階など居住地により浸水リスクのおそれがあります。居住地のリスクを十分確認したうえで、水災補償の選択を慎重に検討しましょう。

水災補償の認定基準
補償される:床上浸水等の損害、床上浸水を伴う再調達価額30%未満の土砂災害等、再調達価額の30%以上の損害。補償されない:再調達価額の30%未満の土砂災害等

火災保険で水災補償の保険金が支払われない場合

以下の損害は水災では補償されません。

  • 地震や津波が原因で起きた浸水被害や地すべり等の損害
  • 暴風や竜巻などの風による損害
  • 給排水設備の事故または被保険者以外の人が占有する戸室で生じた事故による水濡れ損害
  • 大雨を原因としない地盤の崩落など、地盤が原因で起きた土砂災害による損害

損害保険は、その損害が生じた原因により受けられる補償が異なります。豪雨などが原因で起きた損害であれば「水災」、地震や噴火、これらによる津波が原因であれば「地震保険」、風が原因であれば「風災」と、それぞれに対応する補償でカバーされます。
また、給排水設備あるいは被保険者以外の人が占有する戸室で生じた事故による水濡れ損害は、水災ではなく「水濡れ」として補償されます。他方、大雨を原因としない地盤が原因で生じた土砂災害等は、自然災害や偶然の事故ではないため火災保険・地震保険で補償されません。

水災補償で受取れる保険金の目安

水災補償の保険金は、生じた損害の額に応じて支払われます。ただし火災保険では、自己負担額を意味する免責金額を設定する場合があります。その場合、損害額から免責金額を差引いた額が支払われる保険金となります。

支払われる保険金の額=損害額―免責金額

水災被害に遭った際の火災保険金請求の流れ

浸水や土砂災害など水災で被害を受けたときは、原則として訪問による立会い調査が行われます。可能な限り損害状況を撮影しておき、損保会社に連絡して訪問を受けましょう。
訪問による立会い調査では、調査員による損害についての説明や、保険金請求書の作成案内を受けられます。損害額が確定したら、損保会社に保険金請求書類をそろえて送付しましょう。書類のやり取りがスムーズに進めば損害発生時から3〜4週間程度を目安に保険金が支払われます。

一般的な保険金請求フロー(水災)
水災の損害保険金の保険金請求フロー図:手順概要:損保会社に事故発生の連絡(片付ける前に、複数の角度・方向から損害状況の写真を撮っておく、後日、立会い調査の日程調整の連絡が来る)。その後、保険金請求書類の受取り(1週間程度)。被害状況の立会い調査(保険金請求書の作成について案内も受けられる)。保険金請求書類の作成・提出(保険金請求書、損害状況の写真、修理見積書等)。その後、保険金請求内容の確認・承認(1から2週間程度、書類到着後2から3営業日で連絡確認。大規模災害では時間がかかることも)。保険金受取り(1週間程度、振込金額を必ず確認)。

火災保険の水災補償の選択は加入率とリスクを踏まえて慎重に

水災の被害を受けるリスクは居住地により異なります。重要なことは、自宅に水災リスクがあるかどうか、ハザードマップ上で確認したうえで、火災保険の補償内容を慎重に検討することです。

参考として、火災保険の水災補償の付帯率は以下のとおりです。

水災補償付帯率推移(全国計)
年度 付帯率(%)
2018年度 69.1%
2019年度 67.8%
2020年度 66.6%
2021年度 65.4%
2022年度 64.1%

また、平成28年の調査では、水災を補償する火災保険や火災共済に加入していない人にその理由を問うと、約43%の人が「自宅付近で水害は起こらないと思うから」と回答しています。次に多いのが「自宅周辺で水害が起こっても自宅建物は被害を受けないと思うから」という結果でした(グラフ参照:内閣府調査(調査期間:平成28年1月7日〜17日))。

自宅建物について、水害による損害を補償する火災保険や共済に加入していない理由
自宅周辺で水害は起こらないと思うから43.4%、自宅周辺で水害が起こっても自宅建物は被害を受けないと思うから17.6%、保険料が高いと思うから17.0%、賃貸住宅に住んでいて建物の火災保険や共済に加入する必要がないから15.1%、水害による建物の損害を補償する火災保険や共済があることを知らなかったから14.1%、水害による建物の損害を補償する火災保険や共済への加入を勧められていないから11.9%、被害額は小さいと思うから9.7%、十分な補償がされないと思うから9.5%、どこに相談したらよいかわからなかったから3.3%、自宅建物に火災保険や共済をかける価値がないと思うから3.0%、国や地方公共団体による支援で足りると思うから1.0%、その他1.3%、特にない1.3%、わからない2.9%

しかし、平成30年の調査によると、2018年7月豪雨で大きな被害を受けた岡山県真備町では、ハザードマップの内容を理解していた人は24%に過ぎず、居住者の7割が洪水の危険性を楽観視していたことが分かっています(平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ「平成30年7月豪雨における課題・実態」)。水災は大きな被害を及ぼすおそれがあるからこそ、ハザードマップに基づき、個々の世帯が必要な備えを検討することが大切です。

居住地の水災リスクはハザードマップで確認

ハザードマップは、一定の自然災害で生じる被害の範囲を地図上で示したものです。河川の氾濫による洪水、低地に水が貯まる内水氾濫や土砂災害、高潮や噴火などのハザードマップがあり、地域の災害特性に応じて市区町村が作成しています。災害時の避難場所や避難経路、避難方法なども記載されているので、被災時や避難時にも役立ちます。ハザードマップは住民に随時配布されますが、手元になくても市区町村の防災課等のウェブサイトで確認できます。

過去の災害において、ハザードマップで予測されていた浸水区域と、実際に起きた区域は多くの場合で重なっていました。居住地に水災リスクがあることがわかったら、現在契約している火災保険に水災補償を追加するか、水災補償が付帯された火災保険に加入し直すことを検討しましょう。火災保険に必ず水災補償が付帯されているわけではないので、自身の契約がどうなっているか、改めて確認してみてください。

火災保険以外に、各種の火災共済も水災リスクに対応できます(「風水害保障」)。
支払われる共済金は損害額ではなく、たとえば「加入口数×1口当たりの共済金」となるなど、損害全額をカバーできないこともあります。火災共済で備えるときは、どのようなとき、どの程度の共済金を受取れるのか、契約時に十分確認することが大切です。

2024年10月より、水災リスクに応じた水災料率の細分化が実施される

2024年10月、多くの損保会社で火災保険料率の改定が行われます。その柱のひとつが、地域間の水災リスクに応じた水災料率の細分化です。これまで全国一律だった水災料率が、市区町村の水災リスクを反映した5区分の保険料率に変更されます。そのため、2024年10月以降を保険始期日として火災保険に加入する場合は、地域ごとに細分化した適正な料率が設定されるようになります。

参考純率における水災料率の細分化の内容は以下の通りです(損保会社により異なる場合もあります)。

  • 市区町村別の水災リスクに応じ、料率がもっとも低い1等地からもっとも高い5等地までの5区分に保険料率を細分化
  • 細分化前の保険料率と比較すると、平均で1等地は約6%低く、5等地は約9%高い水準となり、保険料率の最大較差は約1.2倍※1 ※2
  • 保険料全体(火災、風災、雪災、水災等の補償合計)での数字です。
  • 損害保険料率算出機構が算出する参考純率での数字であり、実際にご契約する際の保険料の較差とは異なります。

保険料の較差のイメージ

1等地から5等地までの水準を示す棒グラフ。1等地は約6%低い水準、5等地は約9%高い水準となり、最大と最小の較差は約1.2倍。細分化しなかった場合の水準も示されている。
出典:損害保険料率算出機構 火災保険参考純率_水災料率の細分化について

このように、2024年10月以降を保険始期日として火災保険に加入する場合は所在地により水災保険料が変わります。これまでより保険料が高くなる場合もあれば、逆に安くなる場合もあります。
ただし、注意が必要なのは、市区町村の5区分が必ずしも所在地の水災リスク度合いを示すものではない点です。相対的にリスクが低い1等地に該当していても、ハザードマップ上で確認すると所在地によりリスクが異なる場合もあります。同じ市区町村内でも洪水リスクがあったり、内水氾濫リスクがあったりする場所があるのが一般的で、なかには土砂災害警戒区域に指定されている場所もあれば、いずれの水災リスクもないとされる場所もあるでしょう。

ソニー損保より補足説明ソニー損保の新ネット火災保険では、水災リスク区分を市区町村ではなく丁目単位で判定します。

水災料率の細分化について詳しくは、下記ページもご覧ください。水災リスクの細分化とは?細分化の内容や水災料率について解説

水災補償はいらない?補償のミスマッチに要注意

水災補償を付帯すると、多くの場合、保険料が高くなります。しかし、保険料の安さだけを優先して、水災補償を外すことは避けましょう。しばしば「川から離れているから大丈夫」と耳にすることがありますが、令和4年「水害統計調査」によると、堤防決壊などによる洪水と内水氾濫による被害のうち、令和4年の全国の水害による浸水被害額は内水氾濫によるものが約7割を占めます。内水氾濫とは、豪雨などで河川外の住宅地等の排水が困難となり、浸水することです。

浸水被害額は内水氾濫が7割
全国の浸水被害額。洪水氾濫等による浸水被害額30%、内水氾濫による浸水被害額70%

居住地の内水危険を知りたいときは、内水ハザードマップで確認できます。ただし、作成を義務付けられた自治体のうち、想定最大規模の内水ハザードマップ公表済みの自治体は未だ約11%にとどまります。多くの自治体の内水ハザードマップが今後更新されることになるので、折を見て確認しましょう。

執筆者清水香1968年東京生まれ。CFP 登録商標 認定者。FP1級技能士。社会福祉士。消費生活相談員資格。自由が丘産能短期大学兼任教員。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランニング業務を開始。2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年、(株)生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、TV出演も多数。公式ウェブサイト(外部サイト)